【書評】万葉秀歌(上巻・下巻) 岩波新書

万葉秀歌(上巻・下巻) 岩波新書

僕にとっては旅の本。学生時代から、海外に行く際には、必ず傍らに。まあ、
今では、iPadに100冊以上入っているので、何か一冊ということは無くなった
けど、今でも、岩波の「万葉秀歌」を本棚で見ると、当時の旅をしみじみ思い
出します。パリでひったくりに遭ったりとか、ウィーンで一文無しになったり
とか、香港の安宿で、この新書を読もうと思っても、冷房がぶっ壊れて、読む気
を無くしたときのこととか、まあ、ロクでもない思い出が多数・・

この万葉秀歌。何が凄いかと言えば、大歌人斎藤茂吉先生の膨大な歌の数から
選び出すセンス。全歌4516首から約1割が選ばれています。額田王の「熟田津
に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな」といった教科書に載る
ものから、初めて知る歌まで多種多彩。また、その解説が分かりやすい。1968年
に発刊されたとは思えない。万葉集に対して何ら基礎知識が無くてもすいすい
読める。

冒頭の一首が、これ。

「たまきはる宇智の大野に馬並めて朝踏ますらむその草深野」 中皇命

「今頃、天皇は、宇智の大きい野に沢山の馬を並べて、朝の狩猟をされ、その
露を含んだ草深い朝草をお踏みあそばすでしょう、という意味なんだけど、その
解説が中皇命の心情までえぐり出し、実に見事。まるで、作品解説が一つの歌集
になるくらい。

学生時代にこの本に触れて以降、様々な万葉集解説を読んできましたが、この
本に及ぶものは未だ無し。僕は、この本を読むまでは、アメリカがいいな、
ヨーロッパがいいな、日本は遅れているなって勝手に思っていたんだけど、
心から日本は素晴らしいと思わせてくれた本でもあります。私たちの祖先が雄渾
で大らかで、それでいてとても繊細であること。その稀有な、本当に稀有な財産
を、こうやって斎藤茂吉先生が、私たちにつないでくださる、このありがたさ。
感謝してもしきれません。

そんな中、やっぱり、万葉集に関しても、初期の作品が気持ちを打つ。もう後期
になると技巧的になってくる。そういう意味で、まず、上巻だけ手に取るのが
お薦め。これで良かったら、下巻へどうぞ。

 

316T6HAJ0TL._SX285_BO1,204,203,200_

このエントリーをはてなブックマークに追加

メールマガジンの紹介

樋渡社中に集う皆さんの交流のためのツールとして、
「樋渡啓祐の地方創生ここだけの話」という
メルマガを創刊しました。
大好きな地方活性化の今までの取組やこれからの話など、
ここだけでしか書けない話をどんどん発信していきます。
様々な同士の方にも参加いただき、地方創生に興味ある方に
役立つ情報を届けていきます。
メルマガ会員限定の少人数講演会なども
積極的にやりたいと考えています。
是非皆さんも樋渡社中にご参加ください。